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成年後見の種類| 任意後見や法定後見(後見・保佐・補助)の違いを解説

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成年後見は、①任意後見、②後見、③保佐、④補助の4種類に分けることができます。それぞれ後見人ができるサポートの内容に違いがありますし利用できる場面も異なりますので、この制度の利用を考える場合は「成年後見の種類」についても知っておくと良いでしょう。

ここでは、認知症で判断力が落ちてしまうことに不安を抱えている方、あるいはすでに判断力が低下しており対策を考えているという方に向けて、これら成年後見の全体像をご紹介します。

成年後見制度の概要

成年後見は法律で定められている制度で、大きく任意後見制度と法定後見制度に分けることができます。任意後見制度に基づく「任意後見」、法定後見制度に基づく「後見」「保佐」「補助」があり、次のように整理することができます。

 

成年後見制度の種類

特徴

利用件数※

任意後見

・本人が交わした契約に基づいて始まる後見。
・本人の判断能力が十分なうちに手続を始める必要がある。

879件

法定後見

後見

・本人に判断能力がなくなってから始める。
・成年後見人に広範な代理権が与えられる。

27,988件

保佐

・判断能力がかなり衰えたときに利用する。
・保佐人には重要な法律行為について同意権が与えられる。

8,200件

補助

・判断能力に一部不安があるときに利用する。
・補助人には申し立てをした特定の行為について同意権が与えられる。

2,652件

 

※2022年1月~12月までの申立件数
参照:裁判所「成年後見関係事件の概況」

利用件数からいうともっともメジャーな成年後見は「後見」であるといえます。

一方の「任意後見」については利用件数が少ないですが、これは利点が少ないからということではありません。任意後見は将来への備えとして始めるものであって、緊急性のない段階で始めることからあまり利用されておらず、有用であることに違いはありません。十分な判断能力が残っているうちに任意後見の利用から検討を始めることも大事といえます。

任意後見の特徴

任意後見はその名の通り本人の“任意”で始める後見です。

後述する法定後見については本人以外による申し立ても可能ですが、任意後見はあらかじめ本人が自らの意思で契約を締結していなければ利用することができません。

そして支援をしてもらいたい内容についても任意に定めることができます。
法定後見ではある程度後見人にできる枠組みが設けられており、その枠内で支援をすることとなります。しかし任意後見では契約内容を自由に考えることができ、どんなことをしてほしいのか、どんなことはしてほしくないのかを、本人とその契約相手となる任意後見受任者が定めていきます。

ただ、任意後見も契約の締結をもって即座に効力が生じるわけではありません。家庭裁判所に「任意後見監督人」の選任を申し立てなければいけません。この監督人を通して裁判所の関与を受けることが要件となっています。

任意後見人にできること

任意後見人にできるのは、任意後見契約で定めた権限の範囲内の行為です。

大きく次の2種類に仕事内容は分けられます。

  • 財産管理:口座の開設や解約、預金の管理、入出金管理、不動産の売買や賃貸、税金や保険料の支払い など
  • 身上監護:住まいの確保、医療サービスの利用、介護サービスの利用、要介護認定の申請 など

法定後見における後見人ができることと大きく異なるわけではありませんが、各行為に関する権限を選択的に付与することができるのが大きな特徴です。本人が求めない行為については権限を与えなければ良いですし、様々な支援をしてほしいならそれだけ広い権限を与えることもできます。

ただし、任意後見であっても介護そのものなどを頼むことはできません。成年後見の制度は法律行為の支援が主目的であって、介護などの事実行為を依頼するための制度ではないからです。そのため後見人に頼めるのは介護サービスへの申し込みや解約といった行為であり、介護を頼みたいのであれば別の契約を交わす必要があるでしょう。

任意後見を始める方法

任意後見を始めるには、次の手順を踏む必要があります。

  1. 後見をしてくれる人を探す
  2. 契約内容を考える
  3. 任意後見契約書を公正証書として作成する
  4. 任意後見監督人の選任を申し立てる

契約書作成は公正証書によって行う必要があります。任意後見においては法律上の要件として定められていますので、この過程を省くことはできません。

(任意後見契約の方式)
第三条 任意後見契約は、法務省令で定める様式の公正証書によってしなければならない。

引用:e-Gov法令検索 任意後見契約に関する法律第3条


公正証書を作成するには、公証役場で手続を行う必要があります。期間に余裕をもって、公証役場にアポを取っておきましょう。

契約書の準備ができ、任意後見を開始するタイミングになれば、“本人の住所地”を管轄にする家庭裁判所にて申し立てをします。申立人になれるのは、本人のほかに「配偶者」「4親等内の親族※」「任意後見受任者」がいます。
※4親等内の親族には、子どもや両親などのほか、本人のひ孫や兄弟姉妹、甥姪などまで含まれる。

申し立ての際は次のものを準備しておきましょう。

  • 申立書
  • 診断書
  • 任意後見契約公正証書の写し
  • 本人の戸籍謄本
  • 成年後見等に関する登記事項証明書
  • 本人の財産情報が記載された資料
  • 費用(申立手数料800円、登記手数料1,400円、郵便切手代)
    ※鑑定を求められたときは鑑定費用も発生する。

後見の特徴

ここからは法定後見について説明していきます。

まずは、後見・保佐・補助に分類される法定後見のうち「後見」についてです。

後見が開始されるのは、本人がすでに判断能力を失っているケースです。そのため他の種類と比べても支援の程度がもっとも手厚くなるように定められています。
※このときの本人は「成年被後見人」、後見人については「成年後見人」と呼ばれる。

重度の認知症であるなど、本人1人では社会生活を送るのが困難である場合は、後見の開始を求めて裁判所に申し立てをする必要があるでしょう。

成年後見人にできること

後見が開始される場面においては、本人ができることに限りがあるため、それを補う形で成年後見人に広い権限が与えられます。

後見開始に伴い成年後見人には代理権が与えられ、本人の同意などを求めるまでもなく、代わりに法律行為(契約締結、サービスへの申し込みなど)をすることができます。本人が法律行為を行っても成年後見人がその後取り消すことができます。
※日用品の購入やその他日常生活についての行為は取り消せない。

ただし、結婚をするための意思表示や養子縁組をするための意思表示まで代理ですることはできません。他にも、離婚をすること、遺言書を作成することなどはできません。

保佐の特徴

続いて「保佐」についてです。

保佐は、本人の判断能力がかなり低下している状態、「著しく不十分」と表現できるケースにおいて開始されます。

「後見」を求めるほどではないものの、そのまま自由に法律行為をできてしまっては本人が大きな損失を被るおそれがあるような場面で申し立てを検討します。
※このときの本人は「被保佐人」、後見人については「保佐人」と呼ばれる。

保佐人にできること

保佐人に、成年後見人のような代理権は原則与えられません。別途申し立てをすることで代理権を付与することもできますが、基本的には「法律で定められた特定の法律行為に対する同意権」が与えられます。

ここでいう特定の行為とは、民法第13条第1項に列挙される、次の行為です。

一 元本を領収し、又は利用すること。
二 借財又は保証をすること。
三 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。
四 訴訟行為をすること。
五 贈与、和解又は仲裁合意(仲裁法(平成十五年法律第百三十八号)第二条第一項に規定する仲裁合意をいう。)をすること。
六 相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。
七 贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること。
八 新築、改築、増築又は大修繕をすること。
九 第六百二条に定める期間を超える賃貸借をすること。
十 前各号に掲げる行為を制限行為能力者(未成年者、成年被後見人、被保佐人及び第十七条第一項の審判を受けた被補助人をいう。以下同じ。)の法定代理人としてすること。

引用:e-Gov法令検索 民法第13条第1項各号


つまり、借金をしたり保証人になったり、不動産を購入したり、訴訟行為をしたり、といった財産に関わる重大な行為を保佐人がサポートできるようになるということです。これらの行為については保佐人による同意が必要とし、本人だけで有効に行うことができなくなります。

補助の特徴

最後に「補助」についてです。

補助は、本人の判断能力に一部不安がある状態、「不十分」と表現できるケースにおいて利用されます。

基本的には本人1人で生活ができるものの、特定の行為については安心のために制限をかけておきたいという場合に申し立てをします。例えば本人が不動産を所有しているところ、それをよく考えないまま売却されてしまっては困るといった場合に補助人を付け、適切な判断を下せるようにしておくのです。
※このときの本人は「被補助人」、後見人については「補助人」と呼ばれる。

補助人にできること

補助人にできることは「裁判所が認めた特定の行為についての同意」のみです。

保佐の場合は法律で同意権が与えられる枠組みが用意されていましたが、補助においてはさらに同意権の範囲が縮小され、補助人は指定された特定の行為だけを支援することとなります。

後見・保佐・補助を始める方法

法定後見を始めるために本人が契約を交わす必要はありません。すでに判断能力を失っているなど、有効に契約を締結することも難しくなっているためです。そこで、代わりに裁判所による厳格な審査を受ける必要があり、その法定後見であってもまずは“本人の住所地”を管轄にする家庭裁判所へ申し立てを行うことから始めます。

その際、後見も保佐も補助も、申立書を作成し、戸籍謄本や診断書、申立手数料等を準備しておきます。

なお、補助の開始を求めて申し立てをするときに限り「本人の同意」が必要です。