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家族信託と成年後見制度の違い| できること・できないことや利用シーンの比較

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「家族信託」と「成年後見制度」、どちらの仕組みを使ってもご自身の財産管理等を他者に任せることはできますし、認知症などにより判断能力が衰えた場合の備えとしても有効な手段です。しかし、どこまで任せることができるのか、任せられる具体的な行為などには違いがあります。

そのため家族信託を利用した方が良いケースもあれば、成年後見制度を利用した方が良いケースもあります。どちらも理解した上で利用することが重要ですので、当記事では両方の仕組みについて言及し、違いを比較していきます。

家族信託の概要

まずは家族信託についてですが、こちらは信託契約を家族間で交わすことをいいます。厳密な定義はありませんし信託法に基づく仕組みですので、民事信託の1つの呼び方と考えることができるでしょう。

そして信託は、「委託者が自らの財産を受託者に託して管理・運用を任せること」と説明できます。

ポイントは、財産の取り扱いに特化しているという点と、交わす契約の内容次第で様々な資産運用が可能になるという点です。

また、信託では①委託者、②受託者、③受益者の3者が当事者として登場するのも特徴的です。家族信託においては委託者が受益者を兼ねて、委託者の子どもなどを受託者とするケースが多いです。
そうすることで、自分自身の判断能力に問題が生じたとしても問題なく子どもに資産運用等を継続してもらえます。

成年後見制度の概要

成年後見制度は、判断能力が衰えた方を法律上保護するための仕組みです。

本人が認知症などで判断能力が衰えてくると、サービスの申し込みや不動産売買の契約締結などの場面で正常な判断を下すことができなくなるおそれがあります。騙されて物品を購入してしまったり、不利な条件で自宅を売ってしまったり、また、無駄遣いが増えてしまったりといった問題も起こり得ます。

こうした問題を防ぐため、本人の法律行為をサポートする人物を選任するのが成年後見制度です。成年後見制度において保護対象となる本人は「被後見人」などと呼ばれ、本人のサポートする人物は「後見人」などと呼ばれます。

そしてこの制度ポイントは、財産の取り扱いに限らず身上監護ができるという点と、後見人等がつくと本人に制約がかかるという点にあります。

ただし、成年後見制度には①法定後見制度と②任意後見制度の2種類があり、②の場合は本人に制約がかかりません。また、①の場合でも本人の判断能力の程度に応じて制約の強さが変わってきます。

家族信託と成年後見制度の違い

家族信託と成年後見制度の大きな違いは次の点にあります。

 

 

家族信託

成年後見制度

趣旨

受託者となった家族に財産の管理や運用、処分を任せる。

判断能力低下への備えとして利用し、財産管理や身上管理をしてもらう。

開始方法

信託契約の締結

裁判所による審判

財産管理者の選び方

本人の自由

裁判所の介入がある

財産の処分権限

契約に基づいて不動産の処分なども可能。

裁判所の許可が必要な場合がある。

 

家族信託は本人のする契約内容に基づいて開始されるため、比較的自由度が高いです。財産の管理方法、財産を増やすための積極的な運用など、契約への定め方次第で受託者に多様な権限を与えることができます。

一方の成年後見制度は、「財産を増やす」のではなく「財産が不当に減らないようにする」ことが重視されます。

また、成年後見制度では被後見人など“本人のため”に、不利益がないようにするのが主目的です。しかし家族信託は“受益者のため”の仕組みです。家族信託では委託者と受益者を兼ねることがあるため結果的に委託者本人のための仕組みとなることがありますが、「誰のためにしているのか」という点にも違いがあるといえるでしょう。

他の制度・仕組みとの違い

他人に仕事を任せるという意味では「委任契約」という仕組みも使えます。委任者が、法律行為等を受任者に依頼するという内容であり、例えば司法書士や弁護士などに仕事を依頼するときがこの委任契約にあたります。

任意後見契約もこの委任契約と近い性質を持ちますが、裁判所の介入を受ける点で違いがあるともいえます。また、契約に基づいて比較的自由な財産管理や運用ができる点では家族信託にも近い性質を持ちますが、委任契約は認知症を患うなどして後見が開始されてしまうと終了してしまいます。

そのため直近の事務を任せたいときは委任契約も有効ですが、将来を見越して利用する成年後見制度や家族信託の代わりとしては使いにくいでしょう。

相続関連でいうと「遺言書」も役立ちます。

遺言書を作成することでご自身の財産を誰に取得させるのかを決めることができます。そのため相続対策を取りたいときは遺言書の作成で事足りることもあります。ただ、遺言書の場合は二次相続対策ができません。つまり、ご自身が亡くなったときの相続人が、その後亡くなったときのことまで指定はできません。

一方の家族信託では二次相続対策も可能です。どうしても特定の人物に引き継いでもらいたいという思いがあるのなら、家族信託を利用する必要があるでしょう。

家族信託の利用が向いているケース

以上の内容を踏まえて、家族信託を利用することが向いているケースを挙げてみます。

 

家族信託の利用が向いているケース

二次相続対策をしたい

遺言書でも次の代まで財産承継等の指定はできるが、さらに次の代に対する指定をすることはできない。家族信託ではこの二次相続対策が可能。

適切な資産運用で財産の維持・増加をしたい

収益性のある資産を持っているが、自分自身の判断能力に不安があって管理や運用を他人に任せたいというときに家族信託が効果的。
成年後見制度では積極的な資産運用までは基本的にできない。

自分がいなくなった後も家族の生活を経済的に支えたい

相続により自分の財産は配偶者や子どもに取得してもらえるが、その家族が高齢であったり障害を持っていたりして適切に財産を使えないと思われる場合でも、家族信託なら受託者に任せられる。

後継者に事業を渡したい

先代の経営者が一定の権限を保ちつつ、円滑に事業承継を進めることができる。

 

成年後見制度の利用が向いているケース

続いて、成年後見制度を利用するのが適しているケースについても紹介します。

 

成年後見制度の利用が向いているケース

生活に必要な行為をサポートしてほしい

財産管理等だけでなく、身上監護も成年後見制度でカバーできる。後見人等に直接介護をしてもらうことはできないが、介護サービスの申し込みなどを任せられる。

判断能力がすでになくなっている・
衰えている

法定後見制度は、保護対象となる本人の判断能力が低下してから利用することができる。
任意後見制度や家族信託は契約締結をするだけの判断能力が必要であるため、事後対応を取るなら法定後見制度を利用する。

裁判所に監督をしてほしい

成年後見制度を利用するには裁判所による審判が必要。任意後見制度では任意後見監督人が必須であり、法定後見制度でも監督人を付けることができる。費用は増えるが、その分サポートしてくれる人物のチェックをしてもらえる。

 

なお、家族信託と成年後見制度は併用することが可能です。そのため契約をできる状態にあるなら、信託契約と任意後見契約の両方を締結することも検討してみましょう。そうすることで財産の運用に加え将来の身上監護についても安心することができます。